ある患者さんの首に3年前より
痣(あざ)があり、気になって当院を受診されました。さぁ、みなさんの診断は何でしょうか?
病理検査の結果は、予想通り
薬疹(内服薬などの薬よる皮膚炎)を示唆していました
風邪薬などいくつかの薬剤をたまに服用されているそうです。
原因薬検索中に、たまたま風邪をひかれていつもの風邪薬を内服されたところ、首が赤くなったといって再診されました。痣に一致して紅斑(赤い斑)が出ています(下写真)。
よって風邪薬による
固定薬疹と診断しました同じ場所にいつも固定して出る薬疹なので、これを
固定薬疹といいます。繰り返し起こることでシミになっていたのですね
皮膚科医としては、この薬疹を見つけることは、
大きな意義があるのです。何故なら、この薬疹を繰り返しているうちに、致死的な
重症薬疹に進展する可能性があるからです
つまり、この字が重症薬疹の予兆になるわけです(1,2)
先週、某病院でTEN(中毒性表皮壊死融解症)という重症薬疹の方が入院中であることを知りました。TENの中でも最も予後の悪いびまん性紅斑進展型というタイプでした。
(日本皮膚科学会ホームページより引用)
この薬疹は、突然
体の皮膚がずるりと剥脱することで発症します
あたかも重症の熱傷のようです。発症は一見予測不可能のように見えるのですが、
多くの場合前兆があるのです(2)
この薬疹を何度も経験してる立場からいうと、発症1ヶ月以上前から血液中の好酸球が上昇を始め、しばしば経過途中に皮膚炎が出没することがあります。
この前兆の皮疹は、ステロイド外用剤で容易に改善したりするので質が悪いんです。この方もやはり同様の経過で、発症1ヶ月前に一時的に皮疹が出ていたようです。
さらには、もっと以前から原因不明とされていた皮疹がでていたかもしれませんね。たとえば虫さされと誤診されていたりして
特にnonpigmenting form(痕を残さないタイプ)の固定薬疹は見逃され易いそうですからね(1)
さらに、最近話題の重症薬疹
DIHS(薬剤過敏性症候群)にも前兆の皮疹がでることがあります。特に原因
薬剤が、特有の形態の薬疹を呈する場合は見つけ易いです。
下写真の患者さんは、DIHS発症2週間前からこのような皮疹(下写真)が出現していました(3)
その他に、光線過敏症から突然DIHSなったケースも3例経験があります(4, 5) これらの皮疹が、DIHS発症に関わっているかどうかは不明ではありますが・・・。
とにかく、原因不明の皮膚炎がしつこく出現する場合は、薬疹を念頭に置いて経過を見る必要があります
(参考文献)
①Shinohara T, MizukawaY: Dermatology 2002;205:103-4.
②大橋美友紀, 小西朝子, 西村陽一: 臨床皮膚科 2007;61(2):139-42.
③Nishimura Y, et al.: JAAD 2005;53(11):S231-3.
④Nishimura Y: Dermatology 2007;214(4):338-9.
⑤門田 匡史, 山本 洋介, 西村陽一: 日本皮膚科学会誌 2005;115(13), 2243-4.
(院長)
覚えのない痣(あざ)が、突然出現して持続するような場合は
固定薬疹かもしれません。早めに皮膚科専門医を受診しましょう
他科のドクターと薬疹のことを話していると、
「この薬剤は以前から内服しているから大丈夫」と言われることがありますが、その考え方は危険であることが今回の内容でわかると思います。