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2013年1月12日 (土)

TARCを使用したアトピー性皮膚炎の治療

本日は、TARC(ターク)を使ったアトピー性皮膚炎(以下アトピー)治療について解説したいと思います。通院患者さん用に書いたもので、やや難解ですがご容赦ください。
 
当院では、特に重症の成人アトピーの患者さんにTARCを使ったプロアクティブ治療を導入しています。
 
 
(1) TARCとは一体なんでしょうか?
 
TARCとは、Thymus and Activation-Regulated Chemokineの略で、アトピーの患者さんの皮膚から過剰産生されている皮膚の炎症を引き起こす物質(正確にはアトピーの炎症を引き起こすTh2細胞(リンパ球)を病変部に引き寄せるケモカイン)です。外用治療で皮膚が正常になってくると低下していきます。よって、治療効果や重症度の判定に有効です① 自分のアトピーの重症度が数値ででてくるのですhappy02
 
Img_3267
(塩野義製薬ホームページより引用)
 
しかしもっとも大切なことは、治療によってTARCが十分に低下すれば目標500 pg/ml以下「症状が全くない寛解した状態にする」ことができます②happy02そして長期間この状態を維持すれば、本当に完治してしまう方もおられますgoodこの長期間の維持に導入される方法こそがプロアクティブ治療shineであり、近年その有効性が確認されてきています③
 
Pic_dialogue03_07_2
 
(2) プロアクティブ治療の実際
 
(a) アトピーの皮膚は、炎症細胞が浸潤して各種サイトカインを放出し、あたかも火事のように炎症が起こっています(下図(a)および下写真)。この部分の表皮細胞からはTARCが放出され、さらに炎症細胞を引き寄せるという悪循環が起こっています(TARCサイクル)。
Photo
 
下写真 11才男性 12/03/22 (IgE: 3867, TARC: 7023) 
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(b) 薬物治療(ステロイド軟膏やプロトピック軟膏)にて一旦症状は無くなりますが、皮膚の下には炎症細胞が残っており、薬物治療をやめるとすぐにぶり返します(下図(b)および下写真)。TARCは、まだ500pg/mlには達していません。ここでやめれば、TARCが上昇して再燃悪化してしまいます。元の木阿弥ですshockここで薬物療法をいきなり止めずに、しかし徐々に離脱をはかって行きますhappy01
Photo
 
上写真と同一人物 12/12/10 (IgE: 1250, TARC: 856) 
現在症状は軽微であり、次に述べる(c)完全寛解をめざしプロアクティブ治療中
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(c) 外用のレベルを下げるか、あるいは頻度を下げながら徐々に薬物療法を離脱し、かつTARCを下げていきます。TARCが500pg/mlを切ってくると少々のことでは悪化しませんので、大胆に外用頻度を下げて行くことも可能です。週1〜2回の薬物療法まで持って行くことが当面のゴールです。これは下図 (c) の状態であり、この状態をできるかぎり維持しましょう。いつか外用がいらなくなる日までwink
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以上のように、TARCサイクルに陥らない様に、症状がないにもかかわず積極的に外用継続(しかし、徐々に薬物療法離脱)して寛解状態を維持して行く方法をプロアクティブ治療shineといいます。症状があるときだけ(あわててsweat01)外用する方法は、リアクティブ治療といいます。プロアクティブ治療の方が、結局は少ない外用量で寛解状態を長く維持できるだけでなく、長期寛解から治癒の可能性もでてきます②③happy01
 
上記のプロアクティブ治療の図は、第61回日本アレルギー学会春期学術大会 福家辰樹氏(浜松医科大学小児科)の発表より引用(一部改)。写真は当院通院中の患者さんのもの。
 
通院中の患者さんは、是非(C)の完全寛解をめざして頑張って下さいhappy01次回のアトピーに関するブログでは、実際のプロアクティブ治療中の患者さんを紹介したいと思います。
 
(参考文献)
①玉置邦彦ら:日本皮膚科学会雑誌 2006; 116: 27‐39.
②片岡葉子ら: 皮膚の科学 2012; 11(1): 2‐11.
③Schmitt J et al: Br J Dermatol. 2011; 164: 415‐28.
 
(院長)
 
TARCは、英語読みでは「ターク」ですが、これを発見した塩野義製薬からは「タルク」と呼んで下さいとのことでした。しかし、「ターク」が多数派になりつつあります。
 

〠918-8105 福井県福井市木田3丁目2605 
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