NHKスペシャル「新アレルギー治療~鍵を握る免疫細胞~」







結果は(私にとっては)予想通り、ピーナッツを離乳食の早い段階でたくさん食べたほうが、除去食をしたグループより優位にピーナッツアレルギーの発症を抑えたという結果(3.2%対17.3%)です。





乳児アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア障害をもつ乳児湿疹の重症型です。何故当院では、プロアクィブ療法で肌の良い状態を保たせているのか、その理由がよくわかると思います。

乳児アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア障害をもつ乳児湿疹の重症型です。何故当院では、プロアクィブ療法で肌の良い状態を保たせているのか、その理由がよくわかると思います。
長年の研究から、食物制限はアトピーの予防効果も治癒させる効果もないことがわかってきました[1][2][3]。
前回の話題は、ピーナッツアレルギー(Peanuts allergy: PA)の疫学調査から、食事制限は食物アレルギー発症のリスクを高めるかもしれないというお話でした
落花生油(ピーナッツオイル)のクリームを体にぬっている子供にPAが多いという報告です①
これは、食物アレルギーは皮膚から入る食物(アレルゲン)が原因で発症する可能性が高いことを示しています。
くしくもこれを「お茶石けん」が証明したのは記憶に新しいことと思います
お茶石けんに含まれていた加水分解小麦の粘膜(目や鼻)や皮膚からの侵入が、重篤な小麦アレルギーを引き起こしてしまった事件ですね
これらのことから近年注目を浴びているのが、Lack G先生の二重アレルゲン曝露仮説 です(下図)②
食物アレルゲンの経口摂取(oral exposure:経口暴露)は、食物アレルギーの発症を抑制(tolerance)し、皮膚からの食物の侵入(cutaneous exposure:皮膚暴露)は食物アレルギー(allergy)を引き起こすという考えです
またこれは、皮膚からの食べ物の侵入を防げば、食物アレルギーの発症も防げる可能性を示唆しています。②
この侵入経路でもっとも注目されているのが乳児湿疹や乳児アトピー性皮膚炎(以下アトピー)なんですね①②
これは、外用治療を全くしていないアトピーの小児のお肌ですが、もう皮膚バリアがぼろぼろですね この肌じゃ、食べ物(例えばビスケットの屑など)やほこりなどアレルゲンがどんどん皮膚の中に入って行きそうですね
実際に、乳児期早期から適切な外用治療(ステロイド軟膏や保湿剤などのぬり薬)で皮膚のバリアを改善させると、食物(アレルゲン)の皮膚からの侵入が少なくなり食物アレルギー発症を回避させる可能性が報告されてきています②③④
さらに外用治療でアトピーだけでなく食物アレルギーそのものも改善し、特異的IgEも低下することが報告されています④
以上のことから、食物アレルギーのもっとも有効かつ安全な予防法は、乳児期早期からの外用治療であるようです
外用治療が不十分な乳児湿疹や乳児アトピーの子を持つ親御さんが、すぐに食事制限をしたがるのを制して、まずぬり薬ですと外来で強く強調しているのは以上の理由からなんです
(参考文献)
①Lack G et al.: N Engl J Med 2003; 348:977-85.
②Lack G : J Allergy Clin Immunol 2008; 121: 1331-6.
③Simpson EL, et al.: J Am Acad Dermatol 2010;63:587-93.
④片岡葉子: 第111回 日本皮膚科学会総会 教育講演34
(院長)
今回の記事とは関係ありませんが、夏休みでもあり現在レーザーおよび手術(ほくろやシミとり、良性腫瘍の切除など)の予約が2ヶ月先までいっぱいです
お急ぎでなければ秋以降に予約が減ってきますのでその時期の受診をお勧めします
お急ぎの方は、私が信頼をおいている形成外科医あるいは皮膚科医に紹介させていただきます
電話でのご相談はお受けしておりませんのでご遠慮ください
食物アレルギーのなかでもピーナッツアレルギー(Peanuts allergy: PA)は欧米ではもっとも深刻です
なぜなら、アナフィラキシーなどの重篤な症状を引き起こす上に患者数が年々増えてきているためです①
それに、欧米人はピーナッツバター大好きですからね〜 ちなみに当院師長の大好物
でもあります。
このPAの疫学調査から食物アレルギーの概念が大きく変わろうとしています
今回のお話は、イスラエルと英国の小児(ユダヤ人)に対するPAの疫学調査についてです。②
「離乳期からピーナッツ製品を普通に摂取しているイスラエルの小児に比べ、ピーナッツを摂取制限している英国の小児のほうがピーナッツアレルギーが10倍多い。」という驚くべき調査結果がでています(下図)②③
近年、妊娠や授乳期間中の食事制限は、食物アレルギーの予防には効果がないことがわかってきていますが④⑤⑥、
今回の調査結果は、予防としての食事制限はむしろ害になる可能性を示唆しています
この真偽をはっきりさせるために、数年前からある大規模臨床試験(The LEAP Study: learning early about peanut allergy)が開始されています。
離乳期から3才までピーナッツを食べるグループと食べないグループに分けて、PAの発症に差がでるかを調査しています。
来年2013年にその結果がでます この結果次第では食物アレルギーの指導が大きく変わるかもしれませんね
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(参考文献)
①Sicherer SH: J Allergy Clin Immunol 2010; 125: 1322‐6.
②Du Toit G et al.: J Allergy Clin Immunol 2008; 122: 984‐91.
③Gideon Lack: How does food allergy develop?
④Fox AT et al.: J Allergy Clin Immunol 2009; 123: 417‐23.
⑤Gideon Lack et al.: N Engl J Med 2003; 348:977-85.
⑥Verhasselt V: Mucosal Immunology 2010;25:326–33.
(院長)
現在重症の食物アレルギーを持っている方は、食事制限が必要です。
食事制限は、緊急避難的な手段としての意味合いしかありません。これで、アトピーや食物アレルギーが治るわけではないのです。むしろ食物アレルギーの発症を増大させているかもしれないというのが今回のお話でした。ですから、重症でもない乳児湿疹や血液検査の結果だけで食事制限をはじめることは厳に慎まなくていけません。
今回の記事とは関係ありませんが、夏休みでもあり現在レーザーおよび手術(ほくろやシミとり、良性腫瘍の切除など)の予約が2ヶ月先までいっぱいです
お急ぎでなければ秋以降に予約が減ってきますのでその時期の受診をお勧めします
お急ぎの方は、私が信頼をおいている形成外科医あるいは皮膚科医に紹介させていただきます
。電話でのご相談はお受けしておりませんのでご遠慮ください
乳児のアトピー性皮膚炎(以下アトピー)の治療で、いつも困惑することがあります
「数日で症状が良くなったので、ぬり薬は勝手に止めました。」と母親から告げられることです。
ここには、大きな誤解があるのです
保湿剤やステロイド軟膏などの外用治療の目的は、今ある症状を無くすことだけではないのです
目的の1つは、アトピーの発症および重症化の予防です。①②③
これについては、以前当ブログ「アトピーの発症は予防できる。」でも説明しています
下図の右側のように、皮膚バリアー障害(フィラグリン遺伝子異常など)を有する子供は、どんどん皮膚からアレルゲンが入っていきます①②④
赤ちゃんの免疫細胞は、皮膚から入ってくるビスケット(小麦や卵)やピーナッツなどの屑やハウスダストなどの埃(アレルゲン)にさらされ続け炎症(免疫反応→感作成立)を絶えず起こします(上図の右側)③④
ラット(ねずみ)を使った実験では、この炎症が何度も起こると、徐々にアトピーの状態に移行していくことが知られています
継続した外用治療によって皮膚のバリアーを改善維持させてこの炎症を抑えることは、アトピーの発症を予防し、その後の喘息などのアトピーマーチを回避することになるのです(上図の左側)①③
また、発症してしまったアトピーについても、その重症化を防ぎ、大部分のアトピーの子供を治癒に導くことも分かってきています②
よって、治療をしなくても皮膚症状がでなくなる時期(*)まで外用治療は継続する必要があるのです
2つ目の目的は、食物アレルギー発症の回避です。①②⑤
どうやら食物アレルギー(food allergy)は、皮膚からのアレルゲン侵入(cutaneous exposure)によって起こり、口からのアレルゲンの摂取(oral exposure)は、むしろアレルギーを抑える働き(免疫寛容、tolerance)があるようです(下図)⑤
(Lack G:The Journal of Allergy and Clinical Immunology 2008;121: 1331-1336.より引用)
よって、継続的な外用治療で皮膚からのアレルゲン侵入を極力抑える必要があるのです
外用治療をしっかり行うと、食物アレルギー自体も改善し、卵や小麦などの特異的IgE抗体も低下していくことが分かってきています。②
口から入る食物アレルゲンは、むしろ食物アレルギーを抑える(治す)働き(tolerance)があります⑤⑥
乳児アトピーの子を持つ母親が、授乳中のため食餌制限をしてるのを時折見かけますが、むしろ免疫寛容(tolerance)という点ではマイナスでしょう⑥
(Verhasselt V:Mucosal Immunology 2010;25: 326–333より引用)
今年の日本皮膚科学会総会でも、アトピー治療で有名な演者が「どうやら、アトピー治療における食餌制限は間違いだったようです。」と述べられたのは感慨でした
最後に、われわれの乳児アトピー治療における目的は、現在の症状を治すことはもちろん、アトピーの発症を予防することや、発症したアトピーを重症化をさせずに寛解・治癒に持ち込むこと、そして後に起こる食物アレルギーや喘息などのアトピーマーチを回避することにあるのです
乳児アトピーと大人のアトピーとでは、治療目的が異なるのですね
*乳児アトピーの治療経過は、6〜8ヶ月が最も症状が強く、その後改善して行きます。1才くらいには治癒する子供も見られます。2才くらいには、冬に悪化する程度になり、3才くらいには多くの子供が寛解治癒していきます②
(乳児期早期より継続的に治療した方の経過です。無治療自然経過ではありません)
(参考文献)
①Simpson EL, et al.: J Am Acad Dermatol 2010;63:587-93.
②片岡葉子: 第111回 日本皮膚科学会総会 教育講演34
③秋山真志: 日医雑誌 2010;138:2536-7.
④Komatsu N, et al.: Br J Dermatol 2005;153:274- 81.
⑤Lack G: The Journal of Allergy and Clinical Immunology 2008;121:1331-36.
⑥Verhasselt V: Mucosal Immunology 2010;25:326–33.
(院長)
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