お顔の痒いブツブツ、酒さ(しゅさ)様皮膚炎
女性の顔のお肌トラブルは、当院では今やアトピー性皮膚炎に次いで多いですねその中でも最も嫌な疾患が、酒さ(しゅさ)様皮膚炎です何故嫌かって、それは最後に述べますね
(臨床症状および病態)
典型的には、口唇縁をさけて(sparing the lip margins : →)口の周りに紅色小丘疹(赤くて小さなぶつ)や小膿疱(小さな膿)を持つ皮疹(→)が出現します。よって、別名口周囲皮膚炎とも言います。通常は、酒さに特有のflushing(紅潮)や毛細血管拡張症を伴いません。臨床症状から診断は容易ですが、ネット上では酒さと混同した記載が多いですね
原因は不明ですが、フソバクテリアなどの嫌気性菌の繁殖[1]、化粧品など(エステも含む)による毛穴の閉塞やかぶれ[2]、ステロイド外用剤の長期連用[3]などが考えられています。
以前より不適切なステロイド外用剤使用の副作用と考えられてきましたが、ステロイド外用剤の不使用者でも起こります。上写真の下側の方はステロイド外用剤不使用で、化粧品を全て中止し、抗生物質ミノマイシンを内服して治りました
典型的な所見に加えて、両頬に広く皮疹がひろがる方も結構多いです。この方は、にきびダニが繁殖し、化粧品のかぶれも有ありました。他院でステロイド外用剤の長期使用もされていました。こんなお肌の方多いですね〜
当院の師長は、化粧は(当然ステロイド外用剤も)全くしていませんが、この皮疹が出たことがあります。洗顔石けんが原因と考えてそれも止めさせましたが治らず、抗生物質のミノマイシン内服で速やかに消退しました。お化粧をしないので改善が極めて早かったです
現在はお肌絶好調の師長、ノラ君とツーショットです外的要因として、パートナーの無精髭への濃厚接触の刺激によって起こったと言う報告もあります[4] まさか、ノラ君に顔を舐められて起こったなんてことは・・・絶対にないですね ノラ君すみません
(病態について)
最初は恐らく、外的要因や体調の変化などで軽度の酒さ様皮膚炎がステロイド外用剤とは無関係に出現するのではないかと考えています。最初の病態は、口腔内のフソバクテリアなどによる口周囲毛包への感染症[1]ではないでしょうか。さらに脂漏性皮膚炎などの湿疹と間違われ、ステロイド外用剤使用による感染の悪化やにきびダニ症の誘発、化粧品などによる毛穴閉塞[3](これが発症原因の一つかもしれない)やかぶれ(刺激性and/orアレルギー性接触皮膚炎)[4][5]が加わってさらに悪化していくのだろうと考えています。さらに、ステロイド外用剤を止めるとかぶれなどの炎症が急激に悪化するので止められなくなり、悪循環となっていくのでしょう。
(治療)
よって治療は、ステロイド外用剤や化粧品などの顔面に使用しているものを一切中止し、感染症治療のために抗生剤(ミノマイシンなど)を内服をすることになります[5]治療は至極簡単です長年苦しんでこられた方でも、1ヶ月程度でかなり改善しますね
しかし、最低1〜2ヶ月間化粧品など(エステ含む)を完全に止めさせるのが、非常に大変なんです自分が長年使っている化粧品は絶対安全と思っている方が多いので、一生懸命説明してもプンプン怒って帰られる方がおられますさらに、ステロイド外用剤を中止すると一時的ですが症状が悪化するため、さらに不信感が増して来院されなくなることもあります
結局こういった方は、治療中の一時的な悪化に耐えられなかったり、化粧品などを止めるのが嫌で、クリニックを点々と渡り歩いてステロイド外用剤を延々と継続していくことになるのでしょう更なる重症の酒さ様皮膚炎に向かってこれが、この疾患の最も嫌なところですね
軽症の酒さ様皮膚炎の方は、以上の他に何種類かの治療オプションがあります。しかし、重症の方はお化粧を一度スパッとやめないとダメですね
(参考文献)
⑴ Takiwaki H, et al.: Clin Exp Dermatol 2003; 28(5): 531-4.
⑵ Malik R, Quirk CJ: Australas J Dermatol 2000; 41:34-8.
⑶ Weber G: Br J Dermatol 1972; 86: 253-9.
⑷ Wilkinson DS: Int J Dermatol 1981; 20: 485-6.
⑸ Rook's Textbook of Dermatology 8th Edition Vol 2; 43: 11-12.
以上の内容は、私の個人的見解も多く含まれています。特に病態と治療法は意見の違う医師もおられると思います。
(院長)
以上のように、この疾患は顔面全体の皮膚を丁寧に診察する必要があります。多くの女性が、診察時にお化粧を落とすことに対して大変抵抗されます。しかし、この疾患が潜在的に非常に多く、誤診がもとで長期化していくことを考えれば、初診再診を問わず受診時にお化粧を全部落していただくことをご理解ください。
最近、酒さと同様の機序で酒さ様皮膚炎も発生するという考え方が報告されています。この前の美容皮膚科指導専門医講習会でもやっていましたね。TLR-2の異常発現を介したKallikrein5-cathelicidin pathwayです。臨床症状がこんなに違うのに同じ仕組みなのか?だとすると、あのナイーブな酒さ様皮膚炎のお肌にディフェリンゲルが効果的なのか?講習会では効くようなことがテキストに書いてあったけど・・・。ディフェリンゲルを他院で処方されてもの凄く悪化した酒さ様皮膚炎の1例を経験しているだけに、まだちょっと納得できないことが多いです。勉強不足なだけかもしれませんが。